終身雇用制が崩壊し、ひとつの会社に長く勤めることは「普通のこと」ではなくなりました。
早期退職や転職など、人の入れ替わりが激しくなったことに加え、
年功序列ではなく成果主義による世代の多様化、
外国人の雇用、ジェンダーの平等意識の高まりなど、組織の多様性は増し続けています。
そのような状況から、組織の一体感のなさや個々の尊重と組織力との両立に、
難しさを感じている経営者の方も多いのではないでしょうか。
ここでは、企業の目標達成を実現する、「限界を突破するチーム」をつくるチームマネジメントをご紹介します。
チームマネジメントに取り組むことは、今の組織の殻を破り、新しい形の組織に生まれ変わる第一歩になるでしょう。
目次
- チームマネジメントとは?
- チームマネジメントとチームビルディングの違い
- 「限界を突破するチーム」をつくるためのポイントとは?
- チームリーダーに必要な5つの能力とは?
- 組織のチームマネジメントを行う方法とは?
- まとめ
1. チームマネジメントとは?
働き方や価値観、メンバーの多様化によって、組織としてまとまることが難しくなった今、
「チームマネジメント」が注目を集めています。
ここではまず、チームマネジメントの意味や、組織にチームマネジメントが必要な理由を解説します。
(1)チームマネジメントの意味
チームマネジメントとは、企業や組織が掲げる目的を達成するために、チームの目標を設定して成功へと導く手法を指します。
チームマネジメントを任されたマネージャーやリーダーは、メンバーがひとつのチームとなって助けあえる関係をつくり上げ、
チームワークを向上させながら目標に向かって牽引していきます。
(2)現代社会で企業が抱える課題とは?
近年チームマネジメントが重要視されているのは、現代社会で多くの企業が様々な問題を抱えていることが理由です。
社会が急速にデジタルシフトしている現在では、働き方の多様化が進んでいます。
終身雇用制はもはや崩壊し、それにともない企業に対する帰属意識や社員同士の連帯感も薄くなってきました。
新入社員の約3割は3年以内に退職し、メンバーは頻繁に入れ替わります。(※1)
非正規や外国籍の社員、再雇用によるシニア社員の増加など、多様性も増しています。
さらに2020年から続くコロナ禍の影響で、多くの企業がテレワークの導入に踏み切りました。
社員同士が直接話すことが少なくなり、これまでとは違う「チーム」の在り方が問われるようになりました。
このような様々な理由から、多くの社員は「チームで業務を遂行する」という意識が薄れつつあります。
社員が組織を意識しなくなると、日本の企業の多くが実質的に採用しているピラミッド型の統制型組織は、
正常に機能しなくなってしまいます。
統制型組織では、上からの指示に基づき仕事が進んでいきますが、
組織内での自分の立ち位置を意識することがなくなれば、統制力が落ちていくためです。
こうして近年、統制型組織では一体感を保てなくなってきた企業が、
新しい時代の組織力としてチームマネジメントに注目しているのです。
(※1)厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00003.html
(3)なぜ組織にはチームマネジメントが必要なのか?
組織にチームマネジメントが必要とされているのには、2つの理由があります。
1つ目は、チームには、必ず「リーダー」が必要である点です。
日本では、管理職にプレイングマネージャーが多いといわれています。
プレイングマネージャーとは、部下の育成や指導を行うリーダーやマネージャーとしての立場にありながら、
自身も売上に貢献するプレーヤーとしてのタスクも同時に背負っているポジションを指します。
そして、このプレイングマネージャーは、往々にしてプレーヤーとしての役割の比重が大きく、
マネジメントにまで手が回らないという問題点を抱えているのが現状です。
そこには、単に業務量の問題だけでなく、人材育成よりも、
営業利益といった成果のほうが、評価されやすいことが背景にあります。
部下の育成、各メンバーの特性の見極め、
目標や理念の共有といった生産性にも直結するタスクを含むチームマネジメント業務は、
片手間でできるものでなく、れっきとした専門職です。
残念ですが、マネージャーが実務から離れられず、プレイングマネージャーをせざるを得ない環境なのであれば、
そもそも組織として人材育成のマネジメントに失敗していると考えられるでしょう。
2つ目の理由は、チームとして機能させることで組織の生産性が高まることです。
良いものをつくりさえすれば売れた時代は終わり、消費者のニーズも多様化が進んでいます。
企業として生き残るためには、社員がトップダウンで与えられた仕事のみをこなすのではなく、
社員が主体性を持ち、チームで知恵や意見を出しあって、個人それぞれが最大限のパフォーマンスをする必要があります。
ただし、それぞれのパフォーマンスを組織の効率や生産性につなげるには、
ワンマンではなく、同じ目標に向かって、メンバー同士が互いに協力しあわなければなりません。
そのために必要なのが、チームをまとめるチームマネジメントであり、マネージャーの存在なのです。
2. チームマネジメントとチームビルディングの違い
チームマネジメントと並んで、「チームビルディング」という言葉も近年よく聞くようになりました。
チームビルディングは、チームとしてのパフォーマンスを最大限に発揮できるよう、
メンバー同士の信頼関係を築いたり、各人の特性を意識した作業分担をしたりすることが目的です。
つまりチームビルディングとは、リーダーがチームの生産性や効率を最大限に引き出すためのマネジメント手法のひとつといえます。
3. 「限界を突破するチーム」をつくるためのポイントとは?
チームマネジメントでは、チームメンバーの個性を最大限に引き出してそれぞれを融合させ、化学反応を起こすことで、
「限界を突破するチーム」をつくることを目指します。
「限界を突破するチーム」をつくるチームマネジメントのポイントは7つあります。
- 「目的」と「目標」を明確にして共有する
- 多様性のあるメンバー構成を行う
- 情報はメンバー全員で共有する
- チーム内のコミュニケーションを活発にする
- メンバー間の信頼を構築する
- 詳細なタスクと期日を管理する
- チームリーダーを育成する
それぞれ詳しく説明していきます。
(1)「目的」と「目標」を明確にして共有する
チームマネジメントでは、チームの「目的」と「目標」を明確にして共有することが重要です。
従来のトップダウン型組織では、社員は上司から与えられた仕事にだけ目を向けて、ノルマをこなすことを仕事と思いがちでした。
しかしチームマネジメントにおいては、個人の業務は、
その先のチームや組織、企業が掲げる大きな目的につながっていることを明確に示すことを重視します。
一人ひとりが取り組んでいる仕事がチームの役に立ち、それが組織全体の利益につながっていることを知ることが、
主体性や個の力の引き上げにもつながるのです。
(2)多様性のあるメンバー構成を行う
「限界を突破するチーム」をつくるには、性別や年代、スキル、経験など、多様性を持たせたメンバー構成にすることも大切です。
消費者のニーズにも多様性が高まっている現代では、既存の枠にとらわれず、殻を破って、
まったく新しい価値を生み出すイノベーションを起こすことが必要です。
イノベーションは、固定観念に凝り固まった集団からは創出されません。
多種多様な人材が意見を出しあうことで化学反応が起こります。
新規プロジェクトや新商品の開発などにおいては特に、多様性を重視したメンバー構成を行いましょう。
(3)情報はメンバー全員で共有する
チームマネジメントにおいては、情報をメンバー全員で共有することも大切です。
ワンマン上司をマネージャーに据える会社にありがちな、一部の人間がすべてを決め、
「黙って決められたことをやれ」的なチーム運営では主体性を持って動くチームは作れません。
メンバーやチームのモチベーションを上げるには、目標の共有と同時に「なぜそれをするのか」の理由も共有しましょう。
できる限りの情報をメンバー全員で共有し、自由に意見を出しあうことが、限界を突破するチームづくりでは重要です。
(4)チーム内のコミュニケーションを活発にする
チーム内のコミュニケーションを活発にすることも、良いチームをつくるためには重要です。
メンバーに多様性を持たせると、世代や価値観の違いからコミュニケーションを取りにくくなることは事実です。
しかしお互いにわかりあえないとあきらめてしまうと、チームとしての成長は望めません。
活発な意見交換や業務・情報の共有化を図るためにも、コミュニケーションの活性化は必要不可欠です。
チームビルディング研修などを取り入れ、コミュニケーションの円滑化を図りましょう。
(5)メンバー間の信頼関係を構築する
「限界を突破するチーム」をつくるためには、メンバー間の信頼関係を構築することも必要です。
信頼関係を構築するには、まずはお互いのことをよく知ることから始めます。
新しくチームをつくるときは、できるだけ早い段階で、
ざっくばらんに交流する機会を設け、互いに自由に意見を出しあう雰囲気をつくり上げていきましょう。
信頼関係を築くためには、互いに多様性を認め、個々の意見や考え方を尊重する「柔軟性」を一人ひとりが持つことも大切です。
(6)詳細なタスクと期日を管理する
チームとしての大きな目的を共有し、個人の目標を設定したら、
タスクと期日をきちんと管理し、達成に向けて進んでいくようにしましょう。
「いつまでに」「誰が」「何をするのか」を詳細に決め、チームのメンバーで情報を共有し、互いにフォローしあいます。
期日は細かなスパンで区切り、都度互いに進捗確認できるようにしておくと、チームとしての成功に近づけます。
(7)チームリーダーを育成する
ここまで紹介してきた(1)~(6)のポイントを、チームとして円滑に進めていくにはチームリーダーが不可欠です。
ここでいうチームリーダーは、トップダウンで指示を下す人ではありません。
チームメンバーの意見を聞き、それぞれの個性を引き出し、チームとしてまとめあげる役割を果たします。
チームマネジメントにおけるリーダーは、トップで指示を下す従来型のリーダーよりも、高度なマネジメントスキルが必要です。
リーダー研修に参加させるなど、リーダーとして育つ機会を設けましょう。
4. チームリーダーに必要な5つの能力とは?
経営学者として有名なドラッカーは「マネジメント 基礎と原則」で、マネージャーに必要な能力として以下の5つを挙げました。
- 目標設定能力
- 組織化する能力
- コミュニケーション能力
- 評価測定する能力
- 問題解決能力
それぞれの内容を詳しく紹介していきます。
(1)目標設定能力
マネージャーは、具体的で適切な目標を設定する能力が必要です。
そしてそれぞれの目標は、最終的に組織全体の目標につながっていることが求められます。
目標は、2~3カ月で達成できる短期目標から、2~3年スパンで達成を目指す長期目標といった数値で測るものに留まりません。
そのような目標を達成するために知識や技術を身につけること、
チームメンバーの仕事ぶりを管理することもマネージャーの目標に含まれます。
(2)組織化する能力
マネージャーは、チームメンバー一人ひとりという「個」を束ねて、
ひとつのチームという「組織」をつくり上げる能力が求められます。
ドラッカーは「人的資源のあらゆる強みを発揮させるとともに、あらゆる弱みを消さなければならない」と述べました。
マネージャーは自身の持つ人的資源、つまりチームメンバーの個々の能力を引き出し、
適切な人材配置を行うことでそれぞれの弱みを打ち消しあうような組織をつくる能力が必要なのです。
(3)コミュニケーション能力
ドラッカーは、コミュニケーションを「知覚であり、期待であり、欲求であり、情報ではない」と述べました。
「コミュニケーション」と聞くと、「伝える」ことと考えてしまいがちですが、大切なのは「伝わる」ことです。
相手の知覚能力を考慮しなくては、伝えたいことが伝わらず、
相手が期待していないことや欲求とあわないものは受け入れてもらえません。
相手が最終的に知覚して、やっと情報が「伝わる」のです。
マネージャーは自分の主張や指示を単に「伝える」のではなく、相手に「伝わる」コミュニケーションを取る能力が必要です。
(4)評価測定する能力
マネージャーは、チームメンバーを評価測定する能力も必要です。
ドラッカーは、「人には、それぞれの理想、目的、欲求、ニーズがある」
「この個人の欲求を満たすものこそ賞や罰であり、各種の奨励策、抑止策である」と述べています。
マネージャーはメンバー一人ひとりの欲求やニーズをきちんと把握して評価し、評価に対する具体策を考えることが必要です。
(5)問題解決能力
マネージャーには、チームや組織にどんな問題が起こっているのかを見極め、解決する能力が求められます。
ドラッカーは組織の問題とは、必ずしもネガティブなものばかりではなく、成果を出して前進する可能性でもあるとしています。
マネージャーが先頭に立ち、チームとして問題を解決する体験が、結果的にチームの力を底上げすることにつながるのです。
5. 組織のチームマネジメントを行う方法とは?
チームマネジメントを実践するには、ノウハウが必要です。
組織のチームマネジメントを行う方法を紹介します。
(1)外部講師にチームマネジメント研修を依頼する
「うまく組織をまとめたい」「チームマネジメントに取り組みたい」と考えたときは、外部講師に研修を依頼するのがおすすめです。
「これからはチームマネジメントが重要だ」とわかっていても、目の前の業務を優先してしまう企業は決して少なくありません。
しかし組織の長期的な成長を考えるなら、どこかで強制的にリセットして新たな組織づくりに取り組んでいく必要があります。
チームマネジメントに取り組むのであれば、手探りで進めていくのは非効率です。
ノウハウを知り尽くした外部講師にチームマネジメント研修を依頼して、
チームの中核となるメンバーを育成することから始めましょう。
(2)企業全体でチームリーダーを計画的に育成する
チームマネジメントを実践するには、企業全体で計画的にチームリーダーを育成する取り組みも必要です。
企業にチームマネジメントできるようなリーダーがいないのは、
単にこれまでリーダーが育つ土壌ができていないだけではありませんか?
チームマネジメント研修で適切にチームを牽引できるマネージャーが育ったら、
企業全体でもチームリーダーを計画的に育成する取り組みを進めましょう。
長期的な育成プログラムを考える、定期的に社内研修を行うことで、次々にリーダーが育つ環境が整えば、
継続的に成長していける組織になれるのです。
まとめ
働き方や考え方の多様化が進むなか、一体感のある組織づくりは難しくなってきました。
しかし多様化を認め、それを原動力とできることがチームマネジメントのメリットです。
個々の能力をバラバラに活かすだけでは、ただの足し算でしかありません。
チームマネジメントはそれぞれの能力をかけあわせることで、「限界を突破するチーム」づくりを実現します。
チームマネジメントに取り組むには、一定のノウハウが必要です。
まずは外部講師による研修などを取り入れて、効率的にチームマネジメントを学び、中核となる人材を育てていきましょう!